ぼくらはまちの探検隊



紫チーム

まちの時間をつかまえろ

第二回「いざ、時間空間へ(その2)」(2004年12月8日)

じゃ、実際まちに出て、古いものを集めてみようよ。時間もあんまりないし、建物だけにしぼって集めてみようよ。


私たちは、[1]地図を見ながら現在位置を確認する隊員、[2]見つけたものの写真を撮る隊員、[3]見つけたものの情報を記録する隊員、の3つの役割を決めて、上原小から出発し、商店街を通り抜け、代々木高校の裏を通って、東海大学の近くへ出て、再び小学校へ戻るというコースをたどった。


「この木でできた建物古いよね」
「この小学校の隣の建物だったら住みたい」


デジタルカメラの取り合いをしながら、われらが紫探検隊は、順調に物件を拾い上げていく。どうやら古い建物を集めるのは彼らにとってもそれほど難しいことではないらしい。


「どお、撮れてる?」


こうしてさとちゃんが撮った写真をのぞきこんだ時だ。


「あれ、これ建物のどこ?」


見ると窓とそのまわりだけ。建物の一部しかうつっていない。なぜだろう?


「ちゃんととってるよ」


そういうさとちゃんやうっしー、あゆちゃんの写していく写真は、建物の“ある部分”でしかない。もしかすると、私自身が思っている“たてもの”と彼らが見ている“たてもの”は違うのかもしれない。そう考えると、すこぶる“たてもの”という定義すらあいまいになってきた。


「一応、たてもの全部を写そうね。人の写真を撮るときも、手だけ写したりしないよね。まず顔が重要じゃない?」


そういって彼らに建物全体を写すように指示したが、隊長としては、なんだか彼らの視点を台無しにしているような気もしてしまう。なんて優しい隊長だろう!…だが、有効な解決策はさしあたり見当たらず…


1時間半が過ぎ、みんなに疲れが見え始めたころ、東海大学の西側の新興住宅地で、あるひとつの奇妙な家を見つけた。一見すごく新しい。しかしどうやらこれって古くてかなり由緒ある家なんじゃないか?そういう雰囲気がプンプンにおう。だが、道より少し高いところに建てられたその家は、低い目線でまちを見ているわれらが探検隊のメンバーには見えていないようだ…。彼らが見ているまちは、また少しわたしの見るまちと違うのである…だけど、ちょっとみんな歩くの待って!あの家見える??


チラリと見えるその家はとても上品な雰囲気が漂う。住んでる人にインタビューしてみない?ピンポン誰か押してよ?


えー。恥ずかしいよ、とざわめく中、


「俺がやる」


ここで、彼の本領が発揮されることとなった。彼の名はうっしー。おそるべき交渉術を備えた紫探検隊の誇るべき隊員である。


彼は堂々と右手を伸ばし、インターフォンのボタンを押した。


ピンポーン


長い沈黙が続く。うっしーは動じない。そして彼は、おもむろに口を開き、


「あのー、渋谷区役所のモノですけどぉー」


!!…うっしー、さすがである。インターフォンを前にして、物腰からしゃべり方まで完璧だ。彼は一体どこでこのような術を覚えたのか!?


…こらっ!!うそ言うたらあかんやろ!


全員で突っ込みを入れていると


「はーい、どちらさまですか?」


うっしーとわたしで事情を説明すると、住人の方はどうぞとおっしゃる。


「え!?入っていいの??」

あゆちゃん、さとちゃんは知らない人の家にこんな形でいきなり入るのははじめてのようで、戸惑いを隠せないようだ。


いこうよ。そういうしゅんやの後、われらが探検隊は入っていく。


「わー、きれい。なんだか、お話の中に出てくるおうちみたい」


女の子たちはそういう。男の子も目を白黒させてきれいに手入れされた庭や、壁のハーフティンバーを模した装飾を見ている。


「これっていつごろできたんですか?」


副隊長しゅんやがきく。


「ここはね、昔、徳川の将軍様の土地だったのよ。そこに、どれくらい前かは分からないけど、五島慶太(東急グループの創始者)さんの関連で、このおうちが建ったそうなの」


将軍様?


…いけません。読者の方がそういう“将軍様”を想像したいのはよくワカリマス。しかし違うのでアリマス。わたしたちは、決してまちの喜び組ではありません。探検隊なのです。そう、ここは、徳川家ゆかりの地であり、そこに建つこの洋館は、東急グループと何らかの関係があるというのだ。


「ふーん。でもきれいだね」(一同)


あ、あれ?…ちょっとさー、もっとさー、感動っつーかさー、そんなんないの!?…
小学生たちは、どうやらその歴史の厚みはわからないらしい。もちろん、きれいに手入れされ、少し雰囲気の異なるこの住宅は“いいもの”と思うようだ。実際、探検後に聞くと、最もこの家が印象に残ったらしい。しかし、おそらくわたしが感じた驚きとは違う驚きのほうが彼らにとって強かったようだ。なにわともあれ、知らない人の家に入るという行為自体がおどろきなのだから。そういう時、やはり古いものが持つ力というのは、簡単には伝わらないものなのだろうと思う。きっと、古いということを、良いという風に考えすぎるのはよくないし、もっと小学生たちと議論しながら、わたし自身学ばないといけない。そう思った探検だった。わたしはあまり根源的な理由を考えていなかったのだ。まちの空間に、時間は隠されていた。だが、それだけではあたりまえのことであって、人のココロに入っていくには、まだ何か違う装置が必要なのだとそのとき思ったのである。

冬休みの宿題

集めてきた物件のデータに写真を貼り付けて、古い建物台帳をつくろう。
その中でよかったもの、印象に残ったものを理由もつけて書き出そう